ことり公園。
 電車が駅にやっと到着すると、開いた右側の扉へと流れてゆく人混みに乗って、俺たちも電車から降りた。


 同じ方向へ向かうのに別れるのもなんだかおかしくて、そのまま2人横並びに歩き、改札を抜ける。


「……」

「……」


 会話もなく、不思議な気まずさから俯く俺たちの間に、ぬるい風が吹き抜けた。


「まだ、……5月なのに、暑いね。 」


 沈黙が息苦しかったのか、鈴原があまり広がりそうにない話題を振ってきた。


「……うん。」


 上手くない俺は、そのまま面白い会話に持って行くようなことは出来ず、相槌をうつことしか出来なかった。


 ふと、隣から鈴原の視線を感じた。


 気になって隣を見ると、鈴原は軽く微笑んだ。


「……あ、寝ぐせ、ついてるよ。」

「……どこ?」


 今日は軽く寝坊してしまったから、と思いながら、ペタペタと頭を触り、手探りしていると、鈴原はくす、と笑った。


「ここ。」


 そして細い指先で、俺の髪に触れた。


 するりと撫でられて、くすぐったさを感じる。


 つい反射的に、俺はそれをよけてしまった。


 ハッとした時にはもう遅くて、鈴原の大きく見開いた瞳と目が合った。


「……ごめん、触られるの、苦手だから。」

「うん、……わたしこそ、ごめんね。」


 鈴原が少し傷ついた顔をして、また俯いた。


 俺もまた、気まずさに俯く。


 ……なんでよけたり、したんだろう。


 鈴原の傷ついた顔が脳裏に浮かんで、俺も後悔したけれど、これ以上何かを言うのも言い訳くさくてやめた。


 なんだろう、なんていうか、……むずがゆい。
< 28 / 90 >

この作品をシェア

pagetop