ことり公園。
「鶴田が、昼一緒に食わないかって。」


 昼休みになると、お弁当箱の入った巾着袋を片手に、たかひろが言った。


「……どうしたの、急に。」


 問いかけに、たかひろは俺の耳に顔を寄せ、声を潜めて言った。


「俺が、鈴原と近づきたいんだよ。」


 そう、俺から離れたたかひろが指した先には、鶴田と一緒にこちらを眺める鈴原の姿があった。


 ……そういうことか。


「……別に、いいけど。」

「ほんと!?やった!」


 喜んで2人の元へと駆け寄るたかひろの背中を見て、そこでハッとしたけれどもう遅かった。


 ……そういえば朝、鈴原に嫌な態度をとってしまった。


 それに、鈴原は確かたかひろを苦手だと言っていた。


 そう考えている間に、たかひろが戻ってきて、後ろから鶴田が鈴原の腕を引っ張りながらやって来た。


 一瞬、鈴原と目が合ったけれど、すぐに逸らされた。


 ……気まずい。


「あ、小鳥遊、ご飯粒付いてる。」


 気まずさから逃げるようにご飯を食べるのに集中していると、向かいに座っていたたかひろが、自分の頬を指さしながら言った。


 たかひろが指している方と同じ側の頬を触ると、


「違う、こっち。」


 たかひろが反対側の頬に手を伸ばした。


「ちょ、触んな。」


 俺はたかひろの手を振り払い、自分で反対側を触った。


「ちぇっ、なんだよ。ほんとお前、触られるの嫌いだよな。」


 そうたかひろが唇を尖らせるのを見て、俺は今朝のことを思い出し、鈴原に視線を移した。


 また目が合った鈴原は、少し眉を落として、微笑んだ。


 朝の言葉は、嘘だと思っていたのかもしれない。
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