ことり公園。
 俺は盛大なため息をつく。


「……残念だけど、バスで担任と委員の仕事の打ち合わせがあるから、代われない。

 酔い止めやるから、もし酔ったら寝とけば。」


 鞄から酔い止めを取り出してたかひろに投げ渡すと、たかひろは不服そうに唇を尖らせた。


「……もう時間ないから、早く。」


 たかひろは拗ねると面倒くさいので、逃げるように背中を向けてバスに乗り込むと、渋々といった形で、後ろからたかひろがついてきた。


 ……嘘だった。


 本当は打ち合わせなんかない。


 だけど俺は、どうして自分がわざわざ嘘をついてしまったのか、自分でも理解出来ていなかった。


 あの日の電車での、鈴原の潤んだ瞳、優しいシャンプーの香り、華奢な肩を抱いた感触を、思い出す。


 ……ただ、鈴原の隣の席のチケットは、どうしてか特にたかひろには、渡したくはなかった。


 自分の中で、得体の知れない感情が微かに芽生え始めている気がして、気持ち悪くて目を逸らした。
< 37 / 90 >

この作品をシェア

pagetop