ことり公園。
「あ、小鳥遊くん、お疲れ様。点呼はとっておいたから、もう大丈夫だよ。」


 指定の座席に腰掛けると、用箋鋏に挟まれたクラス名簿の表に、チェックをつけた鈴原が言った。


「……サンキュ。」


 さっきのことでモヤモヤしていた俺は、鈴原の優しい笑顔からすぐに顔を逸らした。


 それから間もなく、バスは出発した。


 ……あの日から、変わったことがある。


 いつも鈴原と一緒に登校するのは、偶然電車で会った日だけだったけれど、あの日から、時間も車両も全て毎日同じにした。


 そして俺は、鈴原を庇うように電車に乗る。


 鈴原は何も言わないし、俺だって、勝手にやっている。


 ……きっと鈴原も、ひとりで電車に乗るのが不安なんだろう。


 だから俺を、……拒んだりはしない。


 ぼんやりと流れゆく景色を眺めていると、俺と同じように窓を見つめていた鈴原がぽつんと言った。


「……ね、小鳥遊くん、……覚えてる?わたし、……前にも電車で……。」


 話が読めなくて先を待ちつつじっと黙っていると、突然鈴原が振り向いて、ふ、と笑みを零した。


「……やっぱり、いいや。……忘れて。」


 その笑顔は、ぐっ、と胸が締め付けられるほどに、何故かとても淋しげだった。
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