ことり公園。
 さっきの男の人と共に、首から聴診器と携帯電話をぶら下げた看護師さんが顔を出した。


 男の人に目を向けると、彼はわたしのベッドまで駆け寄り、とても優しい微笑みを浮かべ、先程と同じように左手を握った。


 わたしはそれを振り払うことも、握り返すこともせずに、男の人をじっと見つめる。


 ……何かが、引っかかる。


 このわたしを見つめる優しい眼差しも、この手の温もりも、どこかでずっと感じていたような……。


 わたしと彼が見つめ合っていると、うしろでそれを見ていた看護師さんがこほん、と咳払いをした。


 そしてわたしのベッドに近付くと、自分の呼吸と合わなくなってきていた呼吸器を外してくれた。


「ご家族の方々にはもう連絡しておきました。先程丁度お帰りになられて、面会時間がもう過ぎていますので、明日にはなるかと思いますが……。

 あと、君、今日はもう帰りなさい。」


 看護師さんが淡々と並べた言葉の後半は、目の前の男の人に向けられたようだった。


 すると男の人は不服そうに唇をとがらせる。


 看護師さんはしっしっ、と男の人を払い除けるように手首を動かすと、こちらに向き直り、ペンを片手に、大きな用箋挟を胸元に構えた。


「では鈴原(すずはら)さん。いくつか質問するけど、……上手く話せないようなら、首を軽く振るだけでいいからね。」


 看護師さんを見ながらも、その後ろにいる男の人にチラチラと目線を送っていると、男の人は不服そうな顔を微笑みに変えて、


「また、来るよ。鈴原。」


 と言うと、しきりの向こうへと行ってしまった。
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