ことり公園。
 俺よりも先にじゃがいもを切り終えた鈴原が、ニンジンを切る俺の手元に目を移すと、ん?と声をあげた。


「……ニンジン、少し小さくない?」


 痛いところを突かれた俺は、内心ギクリとしつつも、無表情を決め込む。


「……そう?別に普通だと思うけど。」


 自らすすんでやっていたのは、俺は本当はニンジンが嫌いで、小さく切りたかったからだった。


 鈴原からの鋭い視線を背中に感じるも、俺はあえて無視をして作業を続ける。


「……わたしは、もっと大きいほうが好きなんだけど、……だめ?」

「……うん、いいけど。」


 ぶっきらぼうに答えると、鈴原がぷっ、と吹き出したのがわかった。


「そんな、嫌そうな顔しなくても……。小鳥遊くん、ニンジン嫌いなんだね。」


 鈴原はお腹を手で押さえて堪えているようだけれど、表情には笑いが滲んでいる。


「……笑うなよ。」


 恥ずかしさに、そんな鈴原をじっとりと睨むも、効果はなく、耐えきれなくなったらしい鈴原は、声を高らかにして笑った。


「小鳥遊くんの弱点見つけちゃった。」


 そんな嬉しそうな顔に頭に来た俺は、鈴原の頭上に軽いチョップをくらわせた。


 そしてふと、顔を上げると、かまどのある方面から突き刺すような視線を感じた。


 そこから無表情で俺たちを見ていたのはたかひろで、目が合うと、俺に向かって中指を立ててきた。


 俺は咳払いをひとつして、たかひろの方に背中を向け、作業を再開する。


 バスの前での、たかひろな神妙な表情を思い出す。


 俺は係を決めるとき、じゃんけんで負けてしまったたかひろの気持ちも忘れて、……素で楽しんでしまっていた。


 鈴原との時間を。
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