ことり公園。
 2階の部屋から、1階の広間に差し掛かると、誰かの話し声が聞こえた。


 先生かと思い、俺は慌ててそこの死角になる壁にぴったりと貼り付き、身を隠す。


割と距離が近いらしく、その声は鮮明に聞こえた。


「あ、あのさ、……俺のこと、わかる、よな?」


 男の、やけにおどおどとしている、上ずった声。


「うん、……同じクラス、だし。」


 続いて、どこか聞き覚えのある、女の声が耳に届く。


「あはは、だ、だよな……。」

「……」

「……」


 その後、暫く続いた沈黙に、俺が出ていってしまおうと、壁から身体を離した時、女は言った。


「あの、……話って?」


 諦めて、また壁にくっつき、タイミングを伺う。


「あ、……ええと、鈴原って、今、付き合ってる人とか、……居る?」


 男の出した名前に、俺は思わず反応してしまった。


 どこか聞き覚えがあると思ったら、これは鈴原の声だ。


「ううん、居ないけど……。」

「ほんとっ!?……あ、ごめん。」


 男が急に大きく弾ませた声に、俺は驚いて大きく肩を揺らす。


 慌てて落としそうになった花火を、がっしりと脇に挟みなおした。


 もしかして、……もしかしなくても、これは告白するつもりだろう。


 心做しか、鈴原がどうしようが関係ないというのに、ドキドキしてしまっている自分が居た。


 現に、鈴原の答えが気になって、ここから動き出せないでいる。
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