ことり公園。
「あのさ、……俺と付き合ってって言ったら、……駄目?」

「えっと……。」


 鈴原の戸惑った声に、心拍数がぐんと上がるのを感じた。


 鈴原の次の言葉が、待ち遠しい。


「あの、……わたし……。」


 俺は思わず、息を呑んだ。


「ごめんなさい、……好きな人がいるの。」


 鈴原が言い終わるのと同時に、俺の強ばっていた全身の力がすっと抜けてゆくのがわかった。


 けれど、また別の何かが心にひっかかる。 


「あ、……そっか、……わかった。ごめんな、こんな遅くに呼び出して。」


 男の声が、落胆したように低く、小さくなる。


「ううん、……平気。」

「じゃあ、俺、……部屋戻るわ。」


 パタパタと、スリッパの音がこちらに近付いたかと思うと、また止まった。


「あの、……鈴原。また普通に、話しかけてもいい?」

「うん、……全然、平気。」

「……そっか、うん、ありがと。じゃ。」


 スリッパの音がまた近付いて、男子の部屋は2階だったため、俺は慌てて階段から見えない所へと隠れた。


 額にかいた変な汗を拭って、大きなため息をつく。 


 男が階段を駆け上がったのを確認して、広間へと出ると、ぽつんと佇む鈴原の小さな姿が見えた。


 辺りは静けさに包まれていて、よく響いた俺の足音に反応した鈴原が誰も来るはずなんてないと思っていたのか、大きな瞳を更に大きく見開いて、俺を見た。


「小鳥遊くん……。」


 その顔はどこか、紅潮しているようにも見えた。
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