ことり公園。
「では、詳しいことは明日ご家族の方がお越しになられた時に説明します。」


 看護師さんはそう言うと、桃色のカーテンの向こうへと姿を消した。


 ……さっき、自分のことはわかるかと聞かれた時、鈴原 ことりという名前はわかっていたけれど、歳がわからなかった。


 微かに残る記憶は、幼い頃の思い出ばかり。


 それ以外はまるで全て抜け落ちてしまったかのように思い出せない。


 まず自分が、どんな人間だったのかも、なにもかも。


 その感覚が、気持ち悪かった。


 貴方は18歳だと言われた、だけど、18年間生きていた記憶がない。


 そのぽっかりと空いてしまった大きな穴。


 自分の中を探っても、埋めることの出来ない穴。


 その空いた部分は一体、どこに行ってしまったんだろう……。


 ――『また、来るよ、鈴原。』


 あんなに優しい微笑みをわたしに向けてくれたあの人のことさえも、わからない。


 父と母の顔だって、うっすらと出てくるだけで、霞んでいる。


 じっと考えていると、頭がずっしりと痛んだ。


 必死で思い出そうとしているのに、出てこないそれが、気持ち悪く、もどかしくて仕方がなかった。


 実際、自分が必死で何を思い出そうとしているのかもわからなくて、頭が混乱しておかしくなりそうだった。
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