ことり公園。
 風呂からあがると、父親の話はまだ続いているようだった。


 鈴原はすぐになんでも信じるから、余計なことを吹き込んでないといいけれど。


 相変わらず父のでかい声は、ここまでよく聞こえる。


「……玄関の写真、見た?綺麗だろう、俺の奥さん。つばさのやつもあいつに似てさ、男のクセに綺麗な顔しやがって、ほんと恨めしいったらありゃしない。

 ……まあ、それはいいんだけどさ、早くに母親がいなくなって、俺も仕事で忙しくてさ。

 ほっぽってたからか、中身はどんどん可愛げがなくなって。」


 父の声はいつになく真剣な様子で、あまり父のそういうところを見たことがなかった俺は、ついつい話に聞き入ってしまう。


「……いっつも平気な顔してたけど、本当はずっと、寂しかっただろう。

 あいつなりに気を遣ってかは知らないけど、ワガママひとつ聞いたことがない。

 俺としてはもう少しくらい、甘えてくれたほうが可愛いんだけどなぁ。」

「……でも、つ、つばさくんにも、可愛いところ、ありますよ。……にんじん、嫌いなところとか。」


 ……鈴原、あとで覚えとけ。


「それはまた、可愛いな。」


 父はケラケラと馬鹿笑いしたあと、すぐにまた戻った。


「ことりちゃん、つばさのこと、……色々頼むなぁ。つばさも多分、……絶対かな。ことりちゃんのこと、好きだろうしさ。」

「え、そ、そんなこと、……ありません。だって、小鳥遊くんには……。」


 そこで俺は、急いでわざと大袈裟に脱衣所の扉を開けた。


 その先を言われると、親父にはどうせお見通しだろうし、また情けないと言われると思ったからだ。


 2人の居るリビングへと進むと、父はスッキリした様子で俺を迎えた。


「おーう、つばさ、おかえり。」

「……うん。」


 窓の外に目を向けると、さっきまで降っていた雨は、すっかり止んでいた。
< 59 / 90 >

この作品をシェア

pagetop