ことり公園。
***


 片手はつり革に掴まりながら、ぼんやりと本を読んでいると、後ろからとん、と肩を叩かれた。


 振り返ると、そこに居たのは少しバツが悪そうに俯く鈴原だった。


「あの、……今日のこと、謝りたくて。」

「ああ。別に気にしてないよ。」


 俺は本を閉じ、鞄に押し込み、昼休みの後のたかひろのひどく落胆した様子を思い出し、続けた。


「でも、……たかひろのやつ、ひどく落ち込んでたから、なんとかしてやって。」

「うん、わかった、……ごめんね。」


 そこから会話が途切れて、しばらく窓の外を眺めていると、鈴原がまた口を開いた。


「あのね、……こうちゃんとは、幼なじみなの。」


 鈴原に目を向ければ、彼女も窓の外を見つめていたので、俺もまた同じようにした。


「わたしが、……男の子苦手な理由、昔よくいじわるされてたからで、そんな時いっつもこうちゃんが助けてくれて。 」


 俺の中に少し引っかかる言葉があったけれど、鈴原は構わず話を続ける。


「それで、……今はちょっと色々あって、あんまり話さなくっちゃったんだけど、

 やっぱりわたしにとって大切な人だから、悪く言って欲しくなくて、……つい。

 あの、こうちゃんはわたしのヒーローなの。今もずっと、……そう。」


 ふと気になって、鈴原の顔を見れば、すこし照れくさそうに、優しく微笑んでいた。


 見たことを少し後悔しつつ、俺は頭の中で、前に鈴原が言っていた言葉を思い出していた。


『……いつもわたしのこと、助けてくれる人。』


 ああ、……なるほど、そういうことか。


 少し自惚れかけていた自分に恥ずかしくなって、ここでブレーキが効いてよかったと思った。


 鈴原の好きな人は、きっと俺なんかじゃない。……絵鳩 こうただ。
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