ことり公園。
 それから彼は、5日経っても来なかった。


 その間にわたしは一般病棟に移動して、とりあえずは起き上がる練習をしよう、と体勢を変えながら、ベッドのリクライニング角度を上げたりと、ほんの少しずつ進んでいくこととなった。


 自分の中の混乱は収まっていないながらも、リハビリは始まってしまった。


 ひとりになると、考え事ばかりしてしまう。


 この先のことや、思い出せない過去のこと。


 それと、……何故か小鳥遊くんの顔が浮かんで、――『……絶対また、来るから。』あの言葉を信じ待ち続けている自分が居た。


 空っぽなわたしにとって、彼のような存在は大切だった。


 サイドテーブルに置かれた卓上カレンダーに目をやる。


 わたしが目を覚ました日からもう、1週間が経っていた。


 病院でただどうすることも出来ずに過ごす1週間はとてつもなく長く感じられた。


 個室の扉が開いた音がして、わたしはそちらに視線を送った。


「ごめんねことり、ちょっと今日遅くなっちゃった。」


 そこに居たのは、いつもと同じ、お母さんの姿で、手に持っている荷物から、買い物をしてきていたことがわかった。


「……大丈夫。」


 少し出せるようになった掠れた声を発する。


 母は扉の前で止まったまま、何故か笑顔を浮かべた。


「あのね、今日お客さんが来てくれたよ。」


 そして、母の後ろから顔を出した人を、わたしは微かに覚えている気がした。
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