おやすみを言う前に
「だけどさ、今は不景気だし共働きしないと大変だよね。」
「そうだよねー。高給取りと結婚しないと専業主婦は難しいよねえ。」
明言を避けているうちに話が違う方向に逸れて安心する。
結婚、か。付き合って二年経つからって、拓馬の方が年上だからって、同棲しているからって、そう順調に進む訳ではないのかもしれない。
あのときは、このまま拓馬とずっと一緒にいるのかな、なんて嬉しくなったのに。
* * *
「就活するん?」
同棲を始めてすぐの頃。リビングのテーブルでSPIの勉強をしていたら、残業終わりで帰ってきた拓馬が驚いたように言った。
「一応やらなきゃいけないかなと思って。」
「なんで?教師目指してるんちゃうの?」
定番だけれど、私の好きなネクタイを緩める仕草をしながら、拓馬はソファーに転がった。