おやすみを言う前に
「ん?今なんて言った?」
「だから、ちゅーしてみいや、って。」
「やだっ、無理!」
三ヶ月、六ヶ月、九ヶ月。
カップルには三の倍数ごとに危機が訪れるというけれど、私たちの間にそんなものはないままもうすぐ交際二年を迎えます。
だから、ほら、雪町拓馬は今日もこんなことを言い出した訳で。
「無理ってなんやねん。彼氏にちゅーするのが嫌っておかしいやろ。」
「だってさあ……。」
夕食後リビングでのんびりと食後のアイスを食べていたら、お風呂から上がってきた拓馬が急にこんなことを言ったのだ。
「なあ麻衣子。」
「なーに。」
「ちょっと俺にちゅーしてみてや。」
日常的にいきなりな人ではあったけれど、突拍子もない発言に固まってしまった。
そして話は冒頭に戻る。