おやすみを言う前に
「麻衣子、ちょっとこっち。」
「ん?」
鍋をかき混ぜながら手招きする拓馬に近付く。と、構える間もなく素早くキスされた。
「おかえりのちゅー。」
「……。」
そして満足そうににやっと笑う彼。
拓馬が日頃予測不可能な行動をすることはよくわかっているはずなのに、ほんの些細な隙をつかれてしまう。
一挙一動にいつもドキドキさせられていて、私は「飽き」なんて感じる暇もない。どんどん好きになる一方。もう拓馬がいない日々は考えられない。
拓馬が積極的に引っ張ってくれることを当たり前ではないと理解した振りをしながら、私は自分が思う以上に甘えていたことを痛感する。