おやすみを言う前に

「久しぶり。」

「お久しぶりです。」

「というても、まだ一ヶ月半くらいか。」

「そうですね。」


初デートの日。

何が何でも遅れる訳にはいかないと気合で仕事を終わらせ、待ち合わせの恵比寿駅に直行した。着いてみたら少し時間が余ったので、構内のトイレで身だしなみを整えた。

駅を出てすぐに麻衣子を見つけて声を掛ける。目の前の彼女は記憶の中より一段と可愛くなっていて、柄にもなく緊張感が募る。


「お仕事お疲れ様です。」

「ありがとう。」


律儀な彼女に、これも社交辞令なんかなあ、と一抹の不安を抱えたが、ここから挽回するねん!と気を取り直す。

まだ十九の彼女が気後れしない程度に大人だってことをアピールするのだ。


「あの、私あんまりこの辺詳しくないんですけど、先輩が何か食べたいものがあったら……。」

「実は店予約してんねん。」

「えっ!そうなんですか?」
< 28 / 89 >

この作品をシェア

pagetop