おやすみを言う前に
「久しぶり。」
「お久しぶりです。」
「というても、まだ一ヶ月半くらいか。」
「そうですね。」
初デートの日。
何が何でも遅れる訳にはいかないと気合で仕事を終わらせ、待ち合わせの恵比寿駅に直行した。着いてみたら少し時間が余ったので、構内のトイレで身だしなみを整えた。
駅を出てすぐに麻衣子を見つけて声を掛ける。目の前の彼女は記憶の中より一段と可愛くなっていて、柄にもなく緊張感が募る。
「お仕事お疲れ様です。」
「ありがとう。」
律儀な彼女に、これも社交辞令なんかなあ、と一抹の不安を抱えたが、ここから挽回するねん!と気を取り直す。
まだ十九の彼女が気後れしない程度に大人だってことをアピールするのだ。
「あの、私あんまりこの辺詳しくないんですけど、先輩が何か食べたいものがあったら……。」
「実は店予約してんねん。」
「えっ!そうなんですか?」