おやすみを言う前に
「だってなんやねん。」
「いつも通り拓馬からしてくれればいいじゃん?」
小首を傾げて上目遣いでかわいこぶってみる。
いつもならこの技で「あざといわー、ほんまあざとい女やわー。まあ可愛いから許したる。」とかなんとか言いつつ折れてくれるのだけれど。
「しゃーないなー。」
「うんうん、しゃーないしゃーない。」
「とでも言うと思ったか!」
隙を突かれて両手首を拘束された。どうやら本日はぶりっこ作戦が通用しない模様。
「ほれ、早よ。」
「ええー。」
「俺らもう二年近く付き合うてんねんぞ。いいかげん奥手から脱しろや。」
「う、それは…。」
拓馬に至近距離でじっと見つめられて鼓動が速くなる。二年経とうがなんだろうが苦手なものは苦手だ。
私たちの交際はほぼ百パーセント拓馬のリードで成り立っている。告白もキスももちろんその先も、私は自分のタイミングで拓馬の誘いに応えたに過ぎない。