おやすみを言う前に

雑誌で紹介されたこともあるらしい和風イタリアンの店。値段も高すぎないし、程々に高級感があり、ムードも悪くない。

普段は大阪の汚らしい飲み屋しか行かないから身構えてしまうけれど、彼女の前では余裕に振舞わないと。


「おいしい!」


メインのたらば蟹とアスパラガスのクリームパスタを食べながら、麻衣子は笑顔を見せる。

ネットで予習してきてよかった。何も調べずにいたら、カタカナのお洒落用語が並ぶメニューを前に泡を吹いていたところだった。

相手は年下だし、好きな女の子の前だし、カッコつけたいって思ってしまうのは、男の性ってやつだ。


「喜んでくれてよかったわ。」

「本当にありがとうございます。」


彼女がお酒を飲まないので、俺にしてはかなり珍しく酒抜きの食事になった。アルコールの勢いを借りられないのは心配でもあったが、心なしか麻衣子の表情が柔らかくなってきたように思う。

さて、お会計。こっちが頼み込んでデートしてもらっているのだし、こっちは社会人で男で、彼女は学生で女の子で。

当然奢りで支払って店を出た途端、麻衣子が財布を取り出したのだ。
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