おやすみを言う前に
「じゃんけん、ぽん!」
私たちが同棲をしていく中で自然と生まれたルールはいくつかある。
「やった!一番風呂!」
二人揃っているときはお風呂の順番をじゃんけんで決めるというのもそのひとつ。
後にお風呂に入る人は残り湯で洗濯をする等の後始末を課されるため、じゃんけんは毎回結構本気だ。
「入ってくるねー。」
「たまには一緒に入ろか?」
「え、やだっ。」
急な誘いに、反射的に嫌だと断ってしまった。
「本気で嫌な顔すんなや。冗談やで。」
拓馬はむっと不満げな顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻った。こういう冗談はよくあることだから特別気にするものではないだろう。
十時から見たいテレビあんねんから早よしてやー、という拓馬の声を背中に、一人お風呂の扉を開けた。