おやすみを言う前に

シトラスの香りがする入浴剤を入れた湯船に浸かって、さっきの出来事を思い出す。

あの場面で頷いてみればいいのかな。一緒にお風呂に入れば自然とそういう流れになるだろう。でも、こんなに明るいところで裸を見られるなんて無理、恥ずかしすぎる。

一糸纏わぬ姿は互いに見慣れているが、それは私が要求して電気を消してもらう部屋の中限定だ。一緒にお風呂に入ったことなどもちろんない。

オレンジ色に染まった湯に透ける私の身体。胸もそんなにないし、くびれもかろうじてウエストだとわかる程度。お腹はぺたんこだけれど、ついでにお尻も薄い。つまり、肉感的魅力からは遠い身体だ。

あれは単なるいつもの冗談に過ぎないだろうけれど、こんな状況だから気になってしまう。

やっぱり私が悪いのだ。体型はどうしようもないにしても、態度は今すぐに改められるのに。拓馬の軽口だって、冗談と受け取らずに現状を打開する誘いだったかもしれないのに。

倦怠期ってこのことなのかな。それとも二年も付き合えば皆こんなもの?二ヶ月半前まで最低週に一度あったものがぱったり無くなるもの?

恋愛経験の少ない私には平均がわからない。


「ずっとこのままなのかなあ…。」


ぽつり呟いた言葉は湯気に混じって消える。
< 34 / 89 >

この作品をシェア

pagetop