おやすみを言う前に

代官山方面に道なりに歩く。小洒落たレストランやバーが建ち並ぶ。

すっぽり夜の中、ぽつぽつと明かりの灯る雰囲気は悪くはない。


「そっか、大阪来たことないか。」

「はい。京都と奈良はあるんですけど。」

「修学旅行?」

「そうです、中学の時。」

「俺は関西やったから修学旅行が東京やったなあ。」

「そうなんですか。」


会話のテンポがいまいち弾まない。食事の最中は右肩上がりに距離が縮まっていると確信したのに、十分前の支払いのやりとりから行き詰まっている。

どうしたもんやろか。こんな年下の可愛い女の子は俺には高嶺の花やったんやろか。


そのとき、ふっと麻衣子が消えた。
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