おやすみを言う前に

「どうした?」


視界の隅から外れた彼女は、道路に座り込んでいた。少し考え事をして目を離したほんの一瞬だった。


「すみません、ちょっと。」

「ちょっと?」

「……貧血みたいです。」


俯いていた顔が僅かに上がって覗き込むと、暗がりでも判別出来るくらい白い顔があった。相当具合が悪そうだ。


「真っ白やんか!大丈夫?」

「だい、じょうぶです。すみません。」


全然大丈夫そうにない返事をしながら謝る麻衣子。

近くに横になれる場所はないかと辺りを見回すと、少し先、もう閉まったレストランの軒先にベンチがあった。


「あっちで横んなろ。乗り。」


背中を向ける。戸惑いが空気で伝わってくる。なかなか乗ってこない。
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