おやすみを言う前に

「おはよう、麻衣子。」

「もー、びっくりした。」


いたずらが成功して満足気なご様子。

こんなに密着するのは久しぶりだからドキドキする。そんな私の胸の内を知ってか知らずか、重ねてキスをしてきた。


「おはようのちゅー。」

「……ごはん冷めちゃう。」

「今日の朝ごはん何?」

「鮭と卵焼きと味噌汁。」

「日本の朝食やなあ。」

「だから早く。あと部屋汚いよ。」

「麻衣子が掃除してくれんからや。」

「甘えんぼ。」


腕の中に収まったまま会話が続く。こうしていると幸せだなあ、という言葉しか浮かんでこない。あのことに目を瞑れば、私は拓馬に一粒の不満もない。

気にしないようにするべきなのかもしれない。好きでいてくれていることに変わりはないのなら、それでいいのかもしれない。

これ以上を望むのは、贅沢すぎるのだ、きっと。
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