おやすみを言う前に

泣き出してしまった麻衣子を前にどうしていいかわからないまま、彼女の言葉は続いた。


「私デートってしたことなくて、昨日あんまり眠れなくて緊張してて、ヒールも普段履かないし、なんかいろいろダメで。」


嗚咽混じりの言葉。指の隙間から涙が覗く。


「デートしたことないん?」


今はここに食いつく場面ではないように思えたが、驚きのあまり訊いてしまった。


「ないです。」

「でも誘われたりするやろ?」

「あることはありますけど、相手の方の好意に応えられないのでお断りしました。」


それを聞いて、にわかに胸が踊り出す。今すぐ抱きしめたい衝動に駆られる。

きっと麻衣子は、今自分が何を言ったか気付いていないのだろう。そこがまた愛しい。
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