おやすみを言う前に

「よーう、君が麻衣子の彼氏かー。なんだっけ?ユキグニくん?」

「雪町拓馬と申します。」


さすがに彼女のお父さんに会うのは緊張したが、お父さんはまだ夕方にも関わらずすでに泥酔していた。

娘の彼氏が来るとなれば酒でも飲まないとやってられないのだろうな、と申し訳なくなる。


「すまんすまん、雪国はこのへんのことだなあ!ハッハッハッ。」

「お父さん……。」


おそらく見慣れているはずの麻衣子も戸惑っている様子だ。


「ごめんね、お父さん飲み過ぎたみたい。」

「それはええけど。」


反対されたり追い出されることも覚悟していたのに拍子抜けだ。事前に麻衣子から「うちのお父さんずけずけ言う人だけど、悪気はないから許して。」と聞いて構えていたから、肩の力が抜ける。
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