おやすみを言う前に

最寄りの駅で降りて改札を出る。すると、後方で聞き慣れた声がした。

振り返る。拓馬がいた。

どうやら偶然同じ電車に乗っていたらしい。こんなこともあるんだ。


「麻衣子?」


気付いた拓馬がこちらに笑顔で近付いてくる。しかし、彼の横に見慣れない女の人がいた。拓馬と同じ年くらいのとても美人な女性。


「偶然同じ電車やったんやなー。」

「……。」

「雪町くんの彼女?」

「せや。可愛いやろ?」

「若いし可愛いね。雪町くんにはもったいないんじゃない?」

「やかましいわ。」


仲良さげに喋る二人を目の前にして、私の中で何かが壊れる音がした。
< 75 / 89 >

この作品をシェア

pagetop