おやすみを言う前に
すると、拓馬が帰宅した。足音が部屋の向こうで止まる。
「麻衣子?入るで。」
鍵を掛けていないドアを開けて拓馬が近寄ってくる。電気が付いた。膝頭に額をつけて俯いた。顔が見られない。
「どうしたん?昨日からなんかおかしいで。」
ベッドに腰掛けたのが布団の軋みでわかる。すぐ傍にいるのが空気と声で伝わってくる。
心配してくれている声だ。怒っていないことに安堵するけれど、その余裕さに惨めになる。拓馬が大人に見えるのは私がまだまだ子どもだからだ。
「黙ってたらわからんよ、ちゃんと言うてくれんと。」
いつまでも意地張ってちゃだめだ。わかっているのに顔を上げられない。これでは呆れられてしまう。そんなの嫌だ。