おやすみを言う前に
「そのまんまの麻衣子が好きやねん。」
「……。」
「そんなちっさいこと気にせんでええのに。」
ぎゅっと抱きしめる。
肌に伝わる温もりと柔らかさ。
「麻衣子は一度も好き言うてくれたことないけどな。」
腕を緩めてもう一度顔を覗くと、きょとんとした麻衣子。
態度で愛されていることは充分わかるくせに、言葉にこだわってしまう俺はまだ大人になりきれていないのだろう。
「そうだっけ?」
「そうや。」
「ええー、うそー。」
「嘘やない。いっつも人に好き好き言わせといて自分は言わんて、酷い女やわー。」
言わせるも何もこっちが勝手に言っているのにそれを引き合いに出す俺は、まだ大人になりきれていないのだ。
あからさまな意地悪発言に戸惑ったような麻衣子。しかし一度も口にしていないことを自覚したらしい。準備をしているようだ。