呉服屋の若旦那に恋しました


「既に片付いてるじゃん」


古いため、少し床は傷んでいるが、書庫は綺麗に整頓されているし、父の作品である藍染の鞄や着物、手ぬぐいなども綺麗に保管してある。

掃除をするところと言えば、出窓に少し埃がたまっているくらいだ。

一体どこを綺麗にして欲しいというのだろう。

疑問に思っていると、父が輪ゴムでとめてある写真の束を私に寄越した。


「……なに? これ」

「部屋を掃除した時に出てきたんやけど、これをアルバムにしまっておいてほしいんや」

「うわ、懐かし~!」

「まとめたら書庫に置いといてくれ」

「分かった!」


私は、少し色あせた写真たちを、すぐに木の机の上に並べて、思い出を懐かしんだ。

お母さんが写っている写真は少なかったけど、お母さんの記憶があまりない私には本当に嬉しかった。

ふわふわとした栗毛色の長い髪、お父さんより頭一個分背が小さくて、笑うと目が細くなる…。

お母さんだ。こんな風に、笑ってたんだね。

私がじっくりその写真を眺めていると、


「じゃあ、俺は仕事に戻るが、それが終わったらすぐに志貴君のとこに戻るんやぞ」


と、父が言った。


「返事しなさい」

「……はーい」

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