呉服屋の若旦那に恋しました
この頃から志貴は、私を守ってくれていたのかな。
私の丸い手を、しっかり握ってくれている志貴。
お花見の写真を最後に、時代は一気に飛んで、私が中学に入学した時の写真になっていた。
確かこの頃、藍ちゃんが栃木に就職することが正式に決まったんだ。
お父さんと2人暮らしになって、就活の無い志貴は大学から帰った後、よくご飯を作りに来てくれた。
そう言えば今思うと、志貴と藍ちゃんが話しているのを、私はあまり見たことが無い。
藍ちゃんは人見知りだけど、志貴と彼女の空気は、なんだかとても冷え切っていたように感じた。
その理由は分からないけれど、聞いちゃいけないような空気だった、ということは十分に理解していた。
“聞いてはいけないこと”というのが、なんだか私の周りには沢山あった気がした。
志貴との空白の四年間も、志貴と藍ちゃんの関係も……、それから、お母さんのことも。
……ぺら、と次の写真を捲ると、高校生になった私がいた。
中学の入学式の写真には志貴も写っていたのに、高校生になると、私ひとりの写真になっていた。
志貴への反抗期も過ぎて、彼氏もできて、志貴と毎日会うことは無くなっても、部活に勉強…充実した毎日を送っていた。
この時志貴は店を継ぐために毎日忙しそうにしていて、少し話しかけづらかったんだ。
だんだんと志貴と会う回数は減り、私は自然と志貴離れをしていたのかもしれない。
「衣都はなんで関東語なん?」
「え」
「東京住んでたん?」
学校の帰り道、高校生になって、すぐにできた同い年の彼氏にそう聞かれた。
時折関西弁、殆ど関東語で話していた私は、度々そのことで突っ込まれることが多かった。
藍ちゃんが頑なに関東語を話していたので、私もただそれを覚えてしまったから、というだけの理由なのだが……。
関西人なのに関東語を話す不可解さを理解してくれない人は何人かいて、私の彼氏もそのことについてはあまりよく思っていないようだった。