呉服屋の若旦那に恋しました


「お姉ちゃんとお母さんが関東語だったから……」

「へー、衣都お姉ちゃんなんていたんや」

「うん、今はもう京都を出て一人暮らしを始めてるけど……。高校も県外の寮制の看護系行ってて……」

「はー、よっぽど家から出たかったんやな」

「え」

「どう考えてもそうやろ」


彼の言葉に、私は頭を鈍器でうたれたような衝撃を受けた。

やっぱり藍ちゃんは、私達から、京都から逃げようとしているのかな。

私は藍ちゃんが好きだけど、藍ちゃんはそうじゃないのかな。

そう考えると、すごく悲しくなってきた。


「衣都、兄ちゃんもいるんやろ?」

「え」

「なんか、すっげーイケメンの兄ちゃん」

「ああ、あの人はお兄ちゃんじゃないよ……。ただの幼馴染」

「え、そうなん?」

「うん」



一体どこでそんなデマが流れているのか……。

私は生きてきてもう何十回目となる質問に、少々うんざりとしていた。

志貴はその時もう24歳で、立派な成人男性だった。

呉服屋を継ぐことが正式に決まって、猛勉強をしていると風のうわさで聞いた。

たまに浅葱屋の前を通った時は志貴の顔を見ることができたけど、とくに話しかけることもしなかった。

逆に、志貴が私を見かけた時は、彼はいつも通り話しかけてくれた。

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