呉服屋の若旦那に恋しました



“好きになったりしんかったん?”



「………ごめん……」


私は、自然と口から出た言葉に驚いた。

私は、嘘をつくとき、だって、とか、でも、とか、必ず言い訳から入るんだ。

彼氏のことは好きなのに、それは真実なのに、どうして……。

あの時私は、だって8つも違うんだよ? と言った。好きじゃないということを、年の差のせいにした。

そこしか、言い訳する所が見つからなかったからだ。

8つ上だから、幼馴染だから、お兄ちゃんみたいなものだから、私は彼にとって、子供だから。


そこが、私が志貴を好きじゃないと言い聞かせられる、唯一の言い訳だったんだもの。


お願いだから、誰もこの気持ちには触れないで。

そっとしといて。

それなのに、彼は容赦なく私の心を乱す。

志貴に初めて彼女ができた時、私は正直ほっとした。良かった。これで気持ちを封印する真っ当な理由ができたって。

なのに彼は、彼女とデートをしていても、すぐに私を見つけるんだ。

少し怒ってる彼女に、あの子は特別な子やから、と悪びれずに言って、私に手を振る。


―――酷いよね。

糸を結んではくれないくせに、

いつでも結べるように、私の足元に置いておくの。

俺はここから動かないよって、結ぶか結ばないかは、衣都次第だよって。



私は、あなたの真っ直ぐな優しさが、実はとても怖いんだ。

たぶん私が求めれば、彼は私を愛してくれるだろう。

私はそれが怖い。

だって、先にあなたの指に糸を結びつけたのは私だ。

結び付けておいて、自ら自分と結び合わせるのは怖いなんて、あなたが結んでくれるのを待っているなんて……。



―――志貴が酷い人間ならば、私はずるい人間だ。


< 107 / 221 >

この作品をシェア

pagetop