呉服屋の若旦那に恋しました
だからこうやって、何度も何度もすれ違ってしまうのだろう。
何度も何度も、指からすり抜けてしまうのだろう。
“志貴兄ちゃん、桜ちゃんの魂は――――…”
ごめんね、志貴。
あんな嘘、つくんじゃなかった。
私はちっとも、特別な子じゃないよ。
「……衣都、衣都」
……どれだけの時間、ぼうっとしてしまっていたのだろう。
気付くと、写真はちっとも整理がついていなくて、目の間には呆れた表情をした父がいた。
「お前に任せたのがまちごうてた」
「ご、ごめんっ、つい思い出に浸っちゃって!」
「もう2時間経ったぞ」
「ええっ」
私は、時計を確認して驚愕した。
時刻はすでに17時を過ぎていた。一体どれだけ物思いに耽ってしまったのだろうか……。
まるでタイムスリップしてしまったかのような体感時間に、私はかなり動揺していた。
父は、私が持っていた志貴との2ショットの写真をすっと抜いた。
「……衣都が高校生になった時か」
「あ、うん」
「この時志貴君はいなかったんやな」
「私が志貴離れし始めた時期だもん……」
「志貴君毎日寂しそうにしてたで」
「えー嘘だー。志貴ずっと店の跡継ぎで忙しそうだったしー」