呉服屋の若旦那に恋しました


お願いだから、誰もこの気持ちには触れないで。

そっとしといて。

志貴のことを、好きになったら駄目だ。

だって、私は本当は、全然“特別な子”なんかじゃ、ないもの。

だから、志貴の優しさを勘違いしちゃダメなんだ。


そう、言い聞かせて、

閉じ込めて、押し込めて、蓋をしてきた。



“本当はその方が、いいのかもな……”。



志貴もそう思う?

ねぇ、じゃあ、どうしてあの日、

私が彼氏とキスしているところを見たあの日、志貴は私の目を一度も見てくれなかったの?


「志貴のところ、行ってくる……」

「どうしたんや、急に。寂しくなったか?」

「この髪飾り、気にくわないって、言ってくるだけ」



―――そう言い残し、髪飾りだけ持って、私は志貴の家に向かった。



……私は、あなたの真っ直ぐな優しさが、実はとても怖いんだ。

たぶん私が求めれば、彼は私を愛してくれるだろう。

私はそれが怖い。

だって、先にあなたの指に糸を結びつけたのは私だ。

結び付けておいて、自ら自分と結び合わせるのは怖いなんて、あなたが結んでくれるのを待っているなんて……。


待っているなんて、もうとっくに限界だった。


「志貴……」

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