呉服屋の若旦那に恋しました
中本さんにお願いして、少しだけ時間を貰った。
いつか酔っぱらった衣都を迎えに行った神社で、話をすることにした。
「先日はお見苦しい所をお見せしてしまい、すみませんでした……本当に」
「いえ、さすがに驚きましたが……」
「本当にすみません……」
美鈴さんは、本当に反省しているという風に眉尻を下げた。
この間のことは、本当に驚いた。まさか美鈴さんが俺のことをそう言う風に思ってくれているなんて思わなかったから。
既に衣都は感づいているようなことを言っていたけど、あれは正しかったのだ。
“私、今まで沢山の男性に出会ってきましたが、自分から近づきたいと思ったの、初めてなんです”。
……そう言って、彼女は俺の腰に手を回してきた。
言葉にこそ動揺したが、彼女のその行動にはさほど驚かなかった。
ふわっと香る香水も、力の入れ加減も、同情を誘うような言葉も、タイミングも、全て謀ったようだったから。
俺は意外と冷静に彼女の行動を阻止した。
すぐに腰にまわされた手を外し、落ち着いて話をしようと思った。
けれど、彼女は俺の予想の一つ上を行く行動力を持っていた。
……俺の頬にキスをしたのだ。それは本当に一瞬のできごとで、避けるとかそれ以前に、脳が働いていなかった。彼女の行動がなんだったのかを理解したのは、キスをされた5秒後だった。
油断していた。
こういうタイプの女性が、一番したたかなのだということを、忘れていた。