呉服屋の若旦那に恋しました
―――美鈴さんは、全てのプライドをずたずたに傷つけられたというような表情をした。
そりゃ、そうだろう。自分の考えと正反対のことが正解だったら、誰だってそういう顔をする。
きっと彼女の目には、衣都が俺を好きで堪らないという風に見えたのだろう。温泉旅行も、衣都に無理矢理誘われて…なんて考えたのであろうか。
「そういうことなんで……すみません」
「いえ……そうですか……」
「今後も美鈴さんとはいい仕事仲間でいたいです。もし俺と会うのが今後気まずいようでしたら、打ち合わせには他の従業員を……」
「そういう話を、今は、できません……」
「……失礼しました」
かなり動揺している様子がうかがえる。こんな彼女を、初めて見た。
美鈴さんは、口を手で覆って、泣くでもなく、怒るでもなく、ただ茫然自失状態であった。
「……いつから…好きなんですか…」
「色々、ありましたが……ちゃんと自覚したのはここ5年間くらいでの話です」
「5年……」
「でも、それよりずっと前から、彼女は特別な人です」
「……私、聞いたことが、あるんです」
「え……?」
珍しく、話の腰を折った彼女に、俺は少し驚いた。
彼女が、本当にこの事実を受け入れられていない様子を見て、彼女はプライドの高い人なのだと知った。
「モデルの仕事を本格的にするようになるまで、私は京都の南高校に通っていました。私、実は…志貴さんのこと、知っていました。5年以上前から。志貴さん、有名でしたから……」
「え……」
「覚えていますか? 商店街で、自分と同じ高校の女の子の後輩に絡まれている志貴さんを見ていました……。盗み聞きするつもりなんて、無かった……でも、志貴さんが、今にも壊れてしまいそうな顔をしていたから……」