呉服屋の若旦那に恋しました
私は一気に立ち上がって志貴から離れた。
今日は灰色の着物を着こなしている志貴が、脅えたような目で志貴を見つめる私に近づいてきた。
「今日から衣都には色んなことを勉強してもらう」
「え……、べべ勉強とは」
「俺が今着ているこの着物の色をどうせお前は灰色としか表現できないだろう」
「ぐっ」
「ちなみにこれは灰色じゃない煤竹色と言って黄色が少し入った暗い灰色だ」
「いいじゃんもうそれ限りなく灰色じゃんっ」
「因みに柄は」
「え……ど、ドット」
「そんないきなりポップな呼び方なわけあるか! これは行儀柄だ! 衣都には今日から着付け、着物の種類、柄、色、専門用語、扱い方、何から何まで勉強してもらう」
「……」
「分かりましたね?」
「ハイ」
「ほなすぐ支度しなさい」
そう言って、志貴は冷たい表情のまま部屋から出て行った。
昔から意地悪だったけど……、決して優しい人ではなかったけど……、そんなに厳しくするか!?
私は胸の中のモヤモヤと葛藤しながら、とりあえず洗面所に向かった。
久々に敷布団で寝たから、全身の疲れが全く取れていない気がした。