呉服屋の若旦那に恋しました
「私が、今までどんな想いで志貴を好きな気持ちを閉じ込めてたと思ってるの……?」
「え……」
「意識するなって、無茶言わないでよっ、私が一体何年前から志貴のこと意識してたと思ってるの……っ?」
「衣都……?」
「美鈴さんにデレデレしないでよっ、私はっ、志貴が美鈴さんと会うずっとずっと前から、志貴が好きだったのに!」
「……」
「わ、私の志貴、取らないで……って、言いたかった……っ」
「衣都」
「やだよ……、取らないでっ…、私の志貴でいて……っ」
―――――こんなに愛おしいものがこの世に生まれてしまったら、もう何が起きてもこの子を守るために生き抜くしかないじゃないか。
俺は、あの時、衣都を初めて両手に抱いた時いだいた感情を、もう一度実感していた。
こんなに愛しいものが、あっていいのか。俺なんかの、為に。
俺を取られたくないと必死に訴える彼女に、俺の胸はこれでもかというくらいぎゅっと縛り付けられていた。
衣都が、俺を求めてくれている。
その事実が、こんなにも嬉しくて苦しい。
愛しさのあまり、手が震えるなんてこと、あるんだ。
俺は、彼女の腕を握っていた手をそっと離して、頬を優しくなでた。
どうしたらいい。
この抑えても抑えても溢れ出てくる愛しさを、一体どうしたらいい。
俺は、もう方法が分からないよ。
これ以上ないくらい衣都を愛しているのに、伝え方が分からないんだ。
「衣都……」
目を見つめて、顎に指をかけると、彼女は悟ったのか俺の口を手でおさえた。