呉服屋の若旦那に恋しました
結ばれた赤い糸
幼い頃はちゃんと意味を理解せずに志貴を好きだと言っていたけど、多分、私が志貴を“男の人”として意識したのは、中学生の時だった。
中学時代は、素行の悪い彼氏と付き合っていたこともあった。夜中に家を抜け出して怒られたこともあった。
志貴はその時大学生で、忙しかったはずなのに、一度もそんな私を見放したりしなかった。
志貴が家の手伝いを本格的に行いだしたのはその頃で、志貴の着物姿を見ることは多くなった。
彼の着物姿をちゃんと見た時の衝撃は、今でも覚えている。
肩幅は広いのに、腰にかけてすっと締まっているラインや、少し開いた胸元、裾からのぞく骨ばった長い腕……。
改めて、志貴はスタイルが良いのだと、惚れ惚れしてしまった。
彼が着替えている所を偶然見てしまったときは、かなりドキッとした。
すっと姿勢よく立った、伏し目がちの彼が、右手に紐を渡し、左へすべらせながら紐で腰を巻きつけ、するすると前から後ろに回して交差して、前でぎゅっと力強く結ぶ。
立ち鏡の前で、腰紐の位置が腰骨の高さにきているか、真剣に確認しているその姿に、私は“男”を感じた。
男の人の色気なんて、今まで感じたことは無かった。そりゃそうだ。中学生の男子に色気がある筈がない。
私は、何かとてつもなくいけないものを見てしまった気持ちになった。ドキドキした。
、、、
志貴は、男の人なんだ―――…
志貴みたいな男性が、生まれてからずっとそばにいたら、同級生に魅力を感じないのも無理はない。
志貴のことを意識せざるを得ない環境だったんだ。
そしてついに、私は、ずっと閉じ込めていた想いを、自らこじ開けてしまった。
「何故だ……何故、指輪を受け取らない……」
「…………」
「衣都、お前は俺が好きで、俺はお前が好きだ。婚姻届にハンコを押せと言ってるわけじゃないんだぞ……」
「ううう」
「もういい、無理矢理はめる! 指を貸せ!!」
「いやー! やめて!!」