呉服屋の若旦那に恋しました
あの日から数週間経ち、季節はうつろぎ、11月になった。
私は、毎朝毎朝、志貴と同じ喧嘩をしていた。
それは、婚約指輪を受け取るか受け取らないかという、言いあいだ。
頑なに指輪を受け取らない私に、志貴はとうとうしびれを切らした。
朝食を食べることを一旦放棄して、志貴は席を立ち、座っている私の横に来て、無理矢理腕を掴んだ。
「五郎!! 五郎助けてー!」
「だから、何故なんだ! 理由を言いなさい! この指輪のデザインが気に入らないなら買い直すし、まだ気持ちがかたまっていないのなら待つ! そう言ってるだろ!」
「ゆ、指輪はかわいいし、志貴のことも好き……」
「じゃあ他になんの理由がある!?」
「………」
「衣都、こっちを見なさい」
志貴が、俯いている私の頭を掴んで、無理矢理上に向かせようとした。
私は、ある決心がまだできなくて、そのことが解決するまでは、指輪を受け取れないと思っていた。
そりゃ、志貴のことは好きだし、ずっと理想の人だったわけだから、結婚できるなんて夢のようだけど……。
でも私は、あのことをちゃんと謝ってから志貴とそういう仲になりたい。
だからその決心がつくまでもう少し待って欲しいのだけど、それを上手く伝えられない。
どうしよう、でも志貴が怒ってる。そりゃそうだ。強引に彼に好きだと言わせておいて、婚約指輪は受け取らないなんて……。
どうしよう、焦るよ、でも上手く伝えられないんだ。志貴は不審に思うよね、こんな私を。
ごめん、でももう少し待って、ちゃんと言うから。はやく、この気持ちを伝えなきゃ。じゃないと志貴が――……
「衣都、何か言…………え」
「あ……」