呉服屋の若旦那に恋しました
え、え……?
静枝さんは、私に涙を拭くための綺麗な絹のハンカチを渡して、私の手を取った。
想像以上に事が大きくなっている……。
つまり私、今日は静枝さんの家でお世話になるということだろうか……?
志貴は、判断を私に託すかのように見つめてきた。
目が、行かないでくれと言っている。たぶん静枝さんのことだから、1日と言わず1週間くらいに延期してしまう可能性も高いからだろう。
私もそのことは予想できたけど、パッと志貴から目を逸らした。
「きょ、今日だけ、お邪魔してもいですか……」
「もちろん、むしろずっといてくれてええのに」
がーん、という効果音があるならば、今盛大に志貴の方向から聞こえただろう。
私は心の中で志貴に謝りながら、静枝さんに頭を下げた。
ごめん志貴、今日一日でちゃんと決心するから。
だから、今日だけ時間を頂戴。
お願い、志貴。
私は志貴を置いて、静枝さんの家へ向かった。
今日はお店が休みで良かった。
今日1日、しっかり、過去と向き合おう。そして志貴に、ちゃんと謝ろう。