呉服屋の若旦那に恋しました
そう言うと、静枝さんはにっこり微笑んでくれた。
着物を着るのなんていつぶりだろう……。
先に髪の毛をまとめてもらってから、和装下着を着て長襦袢を羽織らせてもらった。
「普段はもっと楽に着れる着物でもええのやけど……、折角初日だからねえ」
「成人式以来です……」
「慣れてへんと苦しかったやろ?」
「はい、成人式の時ははやく脱ぎたくて仕方なかったです」
「ふふ、私も見たかったわあ」
成人式の時、一度地元に帰ってきたけど、その時志貴の家には行かなかった。
志貴には近づいちゃいけないようなことを言われたし、二十歳になった自分を志貴に見られることに、何だか少し緊張したから。
そんな風に昔を思い出してるうちに、静枝さんはするすると着物を着せてくれた。
着付けを覚えろと言われたけど、私こんなに器用じゃないし、できる気がしない……。
「……着物はバランスが悪いとそれやけでなんぼええもんやて不粋なもんとなってしまいます。着付けんややこしいとこって、帯を結う所も大事やけど、裾合わせとおはしょりとか、そん前ん段階が重要なんよ」
「おはしょり……?」
「力も必要やしね、さ、よろめかんように踏ん張ってね」
「わわ」
「ふふ、しっかり踏ん張ってや」
静枝さんがぐっと帯をきつく締めて、私は注意してもらったにもかかわらず思い切りよろめいた。
こんなに細い腕なのに凄い力……着付けって、思ったよりすごく力がいるものなんだ……。
「最初は浴衣ん着付けから教えるからね。浴衣の方が着付けは簡単なんよ。それに浴衣はこれからシーズンやし、それまでにマスターでけるとええな」
「が、頑張ります……」
「志貴はスパルタやから、へこたれんように頑張ってな」
「………」