呉服屋の若旦那に恋しました
いや既に朝の一喝でへこたれてるんですけど……。
私は心の中でそうツッコミながら、ははと乾いた笑みをこぼした。
出来れば静枝さんにご指導願いたい……。
「さあ、でけた。あとは志貴にメイクしてもろて完成や」
「うわ……」
達鏡に映った着物姿の自分に、思わず声が漏れた。
撫子色の着物に、裾から白い桜の花びらが広がっている。とても高価そうな金色の帯がすごくしっくりきていて、私には本当にもったいないと感じた。
正直、成人式で自分が選んだ着物よりよっぽどセンスが良かった。
静枝さんは、歩き方や階段を降りるときの動作も教えてくれた。
そんな静枝さんに何度もお礼を言ってから、私はメイクをしてもらうために志貴の元へ向かった。
――なんだろう、すごくドキドキする。
着物って、なんだか自分をすごくグレードアップしてくれるような、そんな力を持ってる。
慣れていないせいでとても歩きづらいけど、私の胸は妙に高鳴っていた。
志貴に着物姿を見せることが、気恥ずかしいし、照れくさいし、ドキドキする。
私は土間をひょこひょこと歩いて、志貴の部屋の前に着いた。
もう障子に映る陰で私が来たことは既に分かっていると思うけど、なんだか開ける勇気がわかなくてまごついてしまった。
「衣都?」
そんな私を不審に思ったのか、部屋の中から志貴が私を呼んだ。
私は慌てて障子を開けて、部屋に入った。
けれど、思い切り段差に躓いてよろめいてしまった。
「わっ、アホ!」
「び、びびっくりした」
「こっちの台詞や!」