呉服屋の若旦那に恋しました
「志貴、今日私の家でご飯食べよ!」
「え、なんで?」
仕事終わり、衣都が突拍子もないことを提案した。
彼女が突拍子もないのは珍しいことではないが、どうして突然隆史さんの家に……。
理由を聞いても、実家に取りに行きたいものがあるからそのついでに、としか言わない衣都。
俺は不思議に思いながらも車を出して、隆史さんの家―――衣都の実家に向かった。
衣都の家は古いが、隆史さんのアトリエも入っているので凄く広い。
俺は、衣都と正式に付き合ってから隆史さんと会うのは初めてだったので、なんだか少し緊張していた。
藍染の独特な香りの漂うこの家には、幼い頃から良く来ていた。
「入って、志貴」
隆史さんはまだいないのだろうか……?
なんだか不思議なくらい静かな近衛家に、そっと足を踏み入れた。
衣都は自分の部屋に忘れ物を取りに行くのかと思いきや、2階に上がる様子はない。
俺はそれを不思議に思いながら、衣都の後をついて居間に向かった。
「衣都、一体何を忘れ……」
「入って志貴!」
「え」
―――衣都がすっと居間の扉を開けた。
その瞬間部屋の明かりがついて、立派な木の机の上に並べられた豪華な食事が目に入った。
なぜかそこには母さんと父さん、隆史さん、中本さんまでいた。
俺は全くこの状況を把握できなくて、暫し呆然と立ち尽くしていた。
そんな俺に、衣都は楽しそうにこう言った。