呉服屋の若旦那に恋しました
「美味しいね」
そう言って笑う衣都に、俺はこの上ない幸せを感じていた。
先のことを考え過ぎるのは、よくない癖かもしれない。
……簡単にほろほろと落ちてしまう雪柳に触れるのと同じくらい、衣都に触れることが怖い。触れたい。でも、怖い。
だけど、衣都を絶対に守る決意は、とっくに昔からできてる。
幸せなときは、素直に幸せだと感じよう。
今日はきっと、とてもいい日記が書ける……天国にいる2人に伝えたいことが、沢山ある。
この命に感謝するよ。
薫さんが守ってくれたこの命で、薫さんの宝物である君を、必ず守り通すよ。
俺は、心の中でそう誓いながら、薫さんの優しい言葉を思い出していた。
“私は、着物はまるで人の人生みだいだと思ったの。
最初はただの細い糸でも、沢山の人との縁で繋がって、いつか布になって、それぞれ自分の思うように染めていく……。
私も、最後はこんなに美しい着物を完成させたいって、思うわ”。
……薫さん。
薫さんの言っていたことが、今も胸に沁みます。
俺はきっと、衣都の人生が美しく染めあがっていく様子を、見届けます。
届いているかは分かりませんが、拙い文章ですが、伝え続けます。
生きます。
ちゃんと。
前を向いて。
もう何が起きても、逃げずに。