呉服屋の若旦那に恋しました
「おこしやす、どうぞ中へ……」
そこまで言いかけて、私は目を見開いた。
そこにいたのは随分と会っていなかった栃木に住むおばあちゃん(母方の叔母)だった。
「え!? どうしたのおばあちゃんっ、久しぶり!」
「まあ、衣都ちゃん、会えてよかった……成人式以来ね」
「まあ、衣都さんの……一緒に働かせて頂いております中本と申します。今お茶を用意してきますね」
「いえそんな、おかまいなく」
おばあちゃんは申し訳なさそうに手を横に振った。
おばあちゃんは幼いころから凄く育ちが良かったらしく、容姿にもすごく気を使っていて、言葉づかいも綺麗で上品だ。そういえば私のお母さんも写真を見る限り端々に気品が溢れていたような気がする。
着物好きなのはお母さんと一緒で、おばあちゃんは藤色の美しい着物を着ていた。
そんなおばあちゃんを、店内にあるちょっとしたお茶のみのスペースに座らせて、私は質問攻めをした。
「どうしたの!? 会えてすごくうれしいけど、もっと事前に言ってくれれば色々案内したのにっ」
「連絡したかったんだけど、携帯を替えてからアドレス帳が消えちゃってね、それで会いに来たのよ」
「え!? そんな理由で!? 藍ちゃんから聞けばよかったのに!」
驚いて声を荒げると、おばあちゃんはにっこりと笑った。
「なんだか衣都ちゃんの顔が見たかったの。アドレスはそのついでに、と思ってね……」
「おばあちゃん……」
「桜ちゃんのお墓参りもさっき行ってきたの。晴れててよかったわ」
「一緒に行きたかった!」
「まあ、そうよね、でもお仕事の邪魔しちゃいけないと思って……。仕事場に行くと薫にはよく怒られていたから……」
「お母さんも怒ったりしたんだ」