呉服屋の若旦那に恋しました
なんだかお母さんの新しい一面が知れて、私はつい笑ってしまった。
中本さんが日本茶と栗羊羹を出してくれて、今日は混んでいないからゆっくり二人で話して、と言ってくれた。
私は中本さんに沢山お礼を言って、おばあちゃんはぺこぺこ頭を下げていた。
久々に会えたことが嬉しくて、私は最近あった嬉しい出来事や、仕事で大変だったこと、悲しかったことをものすごい勢いで話した。
おばあちゃんはそれは素敵ね、とか、それは大変だったね、とか、私の下らない話をずっと穏やかに相槌を打って聞いてくれた。
「おばあちゃんそういえば今日は宿どうするの? 泊まっていく?」
「突然だったから日帰りのつもりで来たのよ……。次はぜひゆっくり来たいわ」
「そっかー、残念!」
私が眉をハの字にしてあかさらまに残念がると、おばあちゃんは何か言いたげな表情をした。
私が不思議に思って、どうしたの? と尋ねると、おばあちゃんは珍しく言いづらそうにこう切り出した。
「志貴君とは、仲良くやれている?」
「え」
「突然同棲することになったって聞いたから、おばあちゃん凄く心配してて……」
そうだ。
私、おばあちゃんにも藍ちゃんにも、何もちゃんと報告していなかった。
おばあちゃんに心配をかけてしまったことを心のそこから申し訳なく思った。
「おばあちゃん、ちゃんと報告していなくてごめんね……。志貴とは凄く仲良くやってるよ。と言っても、ちゃんとそうなったのは最近のことなんだけど……」
「そうなの……」
「婚約も、正式にしたの」
私は、左手薬指に輝くそれを、おばあちゃんにそっと見せた。
それを見たおばあちゃんは、ゆっくり私の手を取って、
「志貴君と一緒にいると、幸せなのね?」
と言った。