呉服屋の若旦那に恋しました
「昔のだったら、いいよね……」
志貴が子供の頃に書いた日記なら、きっと大したことも書いてないだろうし…。
さすがに私も、最近の日記を見るのは躊躇った。
ドキドキ。変に胸が高鳴った。昔のアルバムを見るのは全く抵抗は無いのに、文字だけの日記を見る方がドキドキするのは何故だろう。
しかし、私のその緊張感は無駄に終わった。
その日記は、殆ど白紙だったのだ。
「なんだ……、全然書いてないじゃん、志貴……」
パラパラと適当にページをめくった。
黄ばんだ紙は、ただ年期が入っているだけで、何も文字が書き綴られていない。
なんだか気抜けしてしまった私は、そのまま日記を閉じようとした。
が、その時、日記に挟まっていた一枚の新聞記事の切り抜きが、ひらりと落ちた。
私は、その記事が挟まっていたページで捲る指を止めた。
「え……」
そこには、数行の文が書かれていた。
短い文なのに、私はその文で、志貴の過去や、さっきのおばあちゃんの言葉の意味を、一瞬で理解した。
私は、震えた手でその新聞の切り抜きを拾った。
―――ああ、そうか。
私が、ずっと志貴に対して感じていた距離感は、これだったんだ。
藍ちゃんが、志貴をあまり良く思っていない理由は、
おばあちゃんが私と志貴のことを凄く心配していた理由は、
志貴が、ずっと私を見守り続けてくれた理由は、
ここにあったんだ。