呉服屋の若旦那に恋しました
志貴が受け止めてくれなかったら、折角綺麗に着せてもらった着物が崩れてしまう所だった。
私は志貴の胸板に埋もれながら、冷や汗をかいた。
志貴は、そんな私をべりっと剥がして、つま先から頭のてっぺんまでじっと観察してきた。
「ちょ、ちょっとそんなに見られると怖いんですけど……」
何か文句を言われるんじゃないかと、私はびくびくしながら目を逸らした。
志貴はそんな私の顎に手を添えて、くいっと上に向けた。
口角を少し上にあげて、優しい瞳をしている志貴と、目が合った。
「似合ってる」
「え」
「俺がもっと完璧にしてやる。メイク道具はもう母さんから全部受け取ってきたからな。ここに座りなさい」
「え…あ、うん」
まさかあんなに真っ直ぐな瞳で褒めてもらえるとは思っていなかったので、私はぽかんとしてしまった。
間抜け顔で突っ立っていると、志貴がどうぞって化粧台の椅子を引いた。
私はそこに、おずおずと座った。
「目、閉じて」
化粧水を染み込ませた冷たいコットンが、頬を滑る。
志貴の指が、コットンを通して私の肌を何度もなぞる。
自分は相手が見えないのに、相手は今自分の顔をじっと見つめているというこの状況が、ひどく私を緊張させた。
緊張のあまり瞼がぷるぷると震えていることがばれていないか心配になった。