呉服屋の若旦那に恋しました
私は、なんだか志貴の家にいることが怖くなって、家を飛び出た。
激しく動揺していた。
私は、土砂降りの雨の中、事実を確かめるために静枝さんの家を目指した。
償いだった?
責任感だった?
私だけが何も知らなかった?
志貴は、一体どんな気持ちで私とずっと一緒にいた?
違う、志貴は、私を愛してくれている。
だって、あの時言ったもの。
衣都がいてくれて良かったって。
志貴がくれた優しさを疑っちゃだめだ。
『衣都、久しぶり』
『何ぽかんとしてんだよ』
『元気だったか?』
……ふと、4年ぶりに志貴と出会った日のことを思い出した。
何故4年もの間、志貴と会うことが許されなかった?
「衣都ちゃん?」
「え」
「どうしたの、傘も差さずに」
――――濡れたまま走っている私に傘を差しだしてくれたのは、偶然通りかかった美鈴さんだった。
彼女は、驚いた様子で私を見下ろしていたが、慌ててハンカチも渡してくれた。
私は、動揺しきったまま、美鈴さんにいきなり問いただしてしまった。
「美鈴さんは、私が東京の大学に行ってる時はすでに、京都で暮らしていたんですよね…?」
「ええ……」
「志貴は、その時京都にいなかったんですか?」
「いえ、私の知る限りではいつもお店にいたわよ」